enchantMOONの見事だったPRまとめ
2013年4月23日IPA(独立行政法人情報処理推進機構)認定の天才プログラマー清水亮氏率いるUEI社によって”次世代の紙”であるenchantMOONの販売予約が開始されました。結果は予約初日で初回生産分は埋まったわけです。いやあ本当にすごかった。
プロダクトとして非常に魅力的なのはもちろんですが。外部から見ていてあまりにもPRが見事だったのでちょっとそのまとめです。基本的にはライズの”ブランドは広告では作れない 広告VS PR”を参考にしています。
1 オンリーワンのポジショニング
まずはポジショニングです。製品やサービスを作る上で、類似製品ではインパクトを与えられません。enchantMOONはタブレットPCの一つでありな がらも、ペンで書くという機能に特化し、他の機能を徹底的に排除したことで、タブレット端末ではない、”次世代の紙”というポジションを獲得しました。
2 スポークスマンの設置
一般にこういう場合はCEOや開発メンバーや社会的信頼の高い人にその役割をまかせます。この場合はCEO,開発メンバー、IPA認定の天才プログラマーという三拍子がそろった清水氏ですね。
3 パブリシティは積極的に
UEIからのパブリシティは少なかったものの。Twitter・Blog等のSocial Mediaで清水氏自ら継続的に情報発信をしたほか、CES、mobile world cogress,mobile it asia等のIT系メディアが集まる場所に積極的に出展、最後は予約開始日に内覧会をusream中継。
4 時間をかけて業界紙からTV、新聞へ
初めは業界紙で露出を重ね、最終的には主要新聞やTVを狙うというものです。今回はIT系メディアから始まり最終的には日本経済新聞、TV東京のWBSに扱われるようになりました。
5 2つのストーリーを用意する
村上隆は”芸術起業論”の中で芸術家は作品を二つの文脈で説明しなければならないとしています。一つはなぜその作品を作ったのか、自分のアイデンティティ と絡めて説明すること。もう一つは、作品の歴史的な意義です。清水氏はアイデンティティに関して父親が製紙会社に勤務していたことや、思考ツールとして子 供ころから紙を用いてきたことを語り、歴史的な意義としては、日本の製造業の中での意義、アランケイの提唱するダイナブックのコンセプトを継承するデバイ スとしての意義を語りました。そして、特筆すべきだったのは歴史的意義の説明のために思想家の東浩紀氏をわざわざ招聘したことです。東氏のおかげでスタイ ラスを取り戻したことについての説明に厚みがもたらされました。
6 情報は小出しに
これはアップルもよくやりますね、ライズの”ブランドは広告でつくれない 広告vsPR”の中でもセグウェイの事例が引用されています。清水氏は2012年11月下旬に開発を発表したものの、この時点ではなんのことかさっぱり分かりませんでした。これ以降、ブログでも就活生向けのエントリーなどで言及するものの、
”ベンチャー企業が、日本発の革新的なタブレットを製造する。発表は1月のCESで”
ということ以上のことは分かりません。
その後、
12月27日 ローレライ・日本沈没の樋口監督が撮影した第一弾PVを公開。
かっこいいPVなのですが、デバイス自体は一部しかみることができませんでした。
12月28日 アスキーでラフスケッチを公開。ここでペンを使った、タブレットデバイスであることが判明しました。デザインかっこいいです。
2013年
1月2日 第二弾PVの公開です。しかし、まだよくわかりません。
1月4日西田宗千佳氏のレポートで
http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/rt/20130104_580495.html?ref=twitter
新たな時代のダイナブック
独自OS
独自UI
子供でもプログラミングができる
hypercardの進化版など機能に関した情報が公開されようやくイメージをつかむことができました。
7 ポジショニングに基づいたシンプルなメッセージ
小出しにされた情報は魅力的であるものの、シンプルではありませんでした。正直、ITの歴史を理解していないとピンときません。実際、海外のプレスも理解できなかったようで、
清水氏も
”海外の人にはもう単純に「これはノートテイカー(Notetaker)で、ノートテイキングに特化したOSとデバイスです」と説明し、その上で、「さらにノートを手書きで検索したり、Webから取り込んだり、ページ同士をハイパーリンクしてHTML5で吐き出したり、プログラムを書いたりもできるんですよ」と説明することにしました” http://d.hatena.ne.jp/shi3z/20130227/1361966751
と言っています。けれども、これもまだシンプルなメッセージとは言えません。
その後、3月Mobile IT asia辺りから清水氏は”紙を再発明する” ”紙の進化型”"次世代の紙”というシンプルなメッセージを発信しはじめました。だいぶわかりやすくなりましたね。
8 期待以上のものを提供する
プロダクトが提供する体験が期待以上のものなのはもちろんですが、今回特にすごかったのは価格です。当初小ロットの生産であることから週アスでは5万円以下を目指すのでは また清水氏もなんとか10万円以下で出したいという発言をするなか。4月18日販売価格39800円が発表されました。これは圧倒的なお得感です。行動経済学でいうところのアンカリングです。見事でした。
実際こういったtweetも見受けられました。
9 人気が沸騰しても飽きられないように
生産の都合があるのでしょうが、あらかじめ初期ロットを1000程度制限としたことです。結局予約が殺到したために数千台は作るようですが。
結果
冒頭にのべたとおり、予約初日に初回生産予定分完売です。
ちなみに11月下旬からのenchantMOONに関するtweetをTopsyで調べるとこんな感じです。
4月23日は圧倒的ですね。
当日の内覧会をUSTREAMで中継したというのが効いたとは思うんですけど、やはりそれまでのPRの積み重ねが当日の爆発的な盛り上がりを生み出したのでしょう。
enchantMOON触ってみたいな。