enchantMOONで示された日本発のアップルというストーリー
はじめに
こんな記事を読みました。
インタビュー&トーク - 新たなコンピューティングパラダイムへの第一歩を踏み出す:ITpro
そこでUEIの清水社長は
enchantMOONが売れた理由について
”強いてあげれば、お金の使い道がなかったのではないかな、という気がします。”
とだいぶ謙遜ぎみに答えていますが、
実際には
enchantMOONのご予約、ご声援、ありがとうございました。第二ロット予約も今週末を目処に一旦締め切ります - UEI shi3zの日記
でも言っていた。
”これはひとえに、まだ未完成ながら、enchantMOONという端末を応援しようという気持ちで予約を入れて下さった皆様の御陰です”
っていうのが正解だと思います。
ではなぜ消費者は応援しようと思ったのでしょうか?
それは
” 日本発のアップルというストーリーが示されたから"です。
所詮私見なので異論は認めます。
順を追って説明します。
ちなみに
enchantMOONの見事だったPRまとめ - chai02's blog
というエントリーも以前書いたことがあります。ご興味あればどうぞ。
1 消費者は何を買ったのか?
「はっ、何言ってるの?enchantMOONじゃん?」って思う人もいるでしょうけど、
それだけじゃないんです、それプラスαがあるんです、
そしてそっちのほうがウエイトは大きかったりします。
そもそもenchantMOON自体は清水氏の上のインタビューを引用するならば
”コンピュータの歴史に詳しい方は「なるほどね」という感じなのですけれども、そうではない人にとってはなんだかさっぱり分からないと言われてもおかしくない物”
なんです。
おそらく大多数の購入した人にとっても、
”なんだかわからないけど、すごくカッコよくて、おもしろそうなもの”
でしかないんです。
じゃ何が購入のモチベーションになったこと言えば
それは日本発のアップルという物語です。
2 消費者の求めていたストーリー
それでは消費者の具体的な姿をイメージしてみましょう。
新しいコンセプトのデバイスを日本で販売するので
新しいもの好きの日本人のギークということになることでしょう。
もうちょっと細かくイメージするとI-phoneの新しいのがでたら買っちゃうタイプで、
かつてはソニー製品を愛していたけど、
この10年はストリンガーに期待しては裏切られ続け、
先進国である日本のコンスーマーエレクトロニクスはもう無理なのかと思えば、
米国のアップルは圧倒的で、
日本の電機業界なにやってんだよ!日本からアップルはでてこないのかよ!
なんでもクラスターつければいいってもんじゃねーぞ。
と思ってる人々です。
3 清水氏の語ったストーリー
清水氏は enchantMOONをアランケイの提唱したDYNABOOKの文脈の中で説明しますが、
その一方、
小さい会社で未来のデバイスを一緒に作ろう! UEIが2014年新卒募集開始! - UEI shi3zの日記 で
" これから日本が輸出すべきなのは思想、意識、考えといったソフトウェアだと信じている。"
" Apple製品にはハッキリと「Made in China」と書かれている。
ただし「Designed in California」とも書かれている。
我々が目指すべきものはこれだ。
我々は「Designed in Tokyo」のハードウェアを作って行く。"
と語ります。
これはまさに自分たちが日本発のアップルになるという宣言であり
日本の消費者が求めていたストーリーです。
しかし、語るだけなら誰もができます。
この後、
清水亮vs川上量生vs東浩紀 怪獣大決戦 - UEI shi3zの日記 の中で
説得のためのlogos(論理).patos(感情),ethos(人柄)の
3要素をフルに活用してこのストーリーが実現可能なことを説明します。
要素別にみていきましょう。
1 Logos(論理)
アップルと同様のことをするには企業にポテンシャルがなければいけません・
つまり、UEIに経営資源である人モノ金、この場合はIT企業なのでほぼ人=もの、金が十分にあるとうことです。
人
人材について 清水亮vs川上量生vs東浩紀 怪獣大決戦 - UEI shi3zの日記
”樋口真嗣と東浩紀、そして濱津誠なのだ。 いわば彼らがエヴァである。経験豊富で頭が良く、優れた才能を持つ、日本最高の叡智を集めた。彼らを操り、サードインパクトを"実際に"引 き起こすのは、現場にいる若く優れた技術者と企画者。全員が修士号を持ち、革命を起こすためにその全能力を賭けてenchantMOONを創りだす天才達 だ。”
と語ります。確かに有名映画監督、思想家、元docomoのOS開発者等々優秀な人材が豊富にいそうです。事実その他のチーフオフィサーを見るだけでも、タミヤの前ちゃんこと前田靖幸氏、東大院教授の西田氏、元スクエニ社長武市智行氏、もう一人のIPA天才クリエーター水野拓宏氏と優秀な人材がそろっています。
もの
実際のプロダクト”次世代の紙”であるenchantMOONですが、これが優れたデバイスであることは言わずもがななので割愛します。詳しくは西田氏のレポートをどうぞ。
【西田宗千佳のRandomTracking】UEIが仕掛ける「enchantMOON」の正体 -AV Watch
うーん格好いい。ハンドルがいい。
カネ
公開会社でないので詳しいことは外部からではよくは分かりませんが、2011年に売上規模5億程度でありながら、年末に5億の資金調達を行っていることからキャッシュはそれなりにありそうです。その上、取締役に四国銀行を経て元スクエア社長・会長を歴任した武市氏がいることから資金でどうこうということはなさそうです。
実際、清水氏は
”ちょっとやそっとでは潰れない会社をつくり、そのうえでこの「馬鹿げた計画」を推進する。MOONの開発は経営に全く打撃を与えない。”
と語ります。
2 Patos(感情)
感情を刺激して説得するには過去のストーリを例にだして説明するのが有効です。
かいつまむと以下のようなストーリーが話されました。
パーソナルコンピューターの黎明期、マッキントッシュを初め多くの製品が発売された。
しかしながら、その大半は発売当初評価されなかった。
しかしながら、購入した少数のユーザーがのちに大きな変革をもたらした。
enchantMOONも初めは評価を受けられないだろうけど、後に大きな変革をもたらす。
というものです、
そしてenchantMOONもアップルの製品のように成功するということを意識付ける
4つのPVが公開されました。
Brave New World, enchantMOON Vol.1 - YouTube
第1弾PVです。
このPVを見たときに直感的にこのPVをイメージしたかたは多くいたのではないでしょうか?
アップル社CM『1984』 リドリースコット監督 - YouTube
リドリースコットが監督を務めた伝説のマッキントッシュのPVです。
このPVを見ると、頭の中にはアップルの製品=enchantMOONという図式が
完全に現れてしまいます。
さらに、アップルの製品=enchantMOON って実際には難しいよねと
か思う人には、こんな写真がさりげなく現れます。
(http://d.hatena.ne.jp/shi3z/20121201/1354334463)
ケネディの演説です。これを見ると
Nothing is impossible.
もう、終了です。
ヤバい、この人ストーリーテラーとして才能がありすぎる。
3 Ethos(人柄)
そしてこれらを話した人は
売り上げ10億規模の会社なのに
高等研究機関を持ち
自社でオープンソースソフトウェアを開発し
CPO・CVOなるものを将来のために招聘するほど無茶をするビジョナリーなCEOかつ
正直、これくらいの人だとハロー効果は絶大で(ハロー効果 - Wikipedia http://p.tl/0Y1t)
私くらいなら何言われても信じちゃう感じはあります。
これらのポイントから新しいもの好きの日本人のギークは
UEIは自分たちが求めいてたストーリーを実現できる会社である。
そしてenchantMOONを購入することは、その実現につながると
考え購入してしまったんです。
もちろんenchantMOON自体の魅力はありますよ、そこはいわずもがなです。
ちなみに、これらメッセージは一度に秩序だって発信されたわけではなく、
断片的に発信されたものを再構成したものです。
清水氏もこういった狙いを持っていたかどうかは定かではありません。
それに、これらすべての要素を目にして購入した人は少なかったかと思います、
しかしながら、目にした一つ一つの要素から背後にあるUEI=日本のアップルというス
トーリーをイメージした人は多かったのではないでしょうか?
次回あたり清水氏はスティーブジョブズかについて書いてみようかな。
以上駄文失礼しました。